[時事寸語]= 過労死推進内閣への警告

 「ワークライフバランスを捨てよ」。高市首相の言葉は、まるで号令のように響いた▼働く者の命を削って成長を誇る時代は、とうに終わったはずである。だがこの国の時計は、また針を逆に回し始めた。労働時間の上限を緩めよと指示する政権。かつて「働き方改革」を掲げた政府と同じ口が、今度は「馬車馬のように働け」と言う。言葉の綾では済まされない。政策の方向が、すでに過労死への坂を下り始めている▼「心身の健康維持を前提に」と添えられた文言が、かえって残酷に響く。前提が守られたことがあっただろうか。電通の若き社員が命を絶ったのは ...

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[時事寸語]= 青森テレビのパワハラ社長辞任

 青森テレビの社長が辞任した。理由は「パワハラ」。説明はそれだけで十分らしい▼暴言、恫喝、圧迫面接――報道の語彙に並ぶのは、ニュース原稿でしか見ないような言葉だが、使われた現場は報道機関そのもの。テレビ局が自らの内部崩壊をニュースで伝えるという、なんとも倒錯した構図である。社員の三割が退職したというのに、「事実を確認した結果」と淡々と発表するのがまた報道らしい。事実は伝えるが、感情は伝えない▼社長はもと報道部出身のキャスターだった。「言葉のプロ」が「言葉の暴力」で辞任する――この皮肉をどう伝えるのか。放送倫 ...

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[時事寸語]= つながらない「いのちの電話」

 「いのちの電話」に、いま電話をかけてもつながらない▼それでも報道の末尾には、決まり文句のように「いのちの電話」の番号が添えられる。誰もが助けを求める先として知っているが、誰もつながらない現実を知っている。国は「相談窓口を周知することが大切だ」と言うが、肝心の受け手がいない。善意に頼り切った制度が、善意の枯渇とともに限界を迎えている▼相談員の平均年齢は六十五歳。七十代、八十代が現場を支えているという。研修費五万円を自己負担し、一年半の講座を経て、報酬はゼロ。二十四時間体制といっても、実際は週末限定。もはや「 ...

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[時事寸語]= 訴訟と和解と痛みと

 訴えを起こしたのが十月十四日。驚くほど早く、二十日には「和解申し出」の文面が届いた。社の印の押された封筒は、いつになく丁寧であった。皮肉なことに、働いていたときよりも迅速な対応である。訴状を読んで初めて「事態を把握した」という文面も、どこか他人事めいていた▼会社とは、事が起きるまで人を見ようとしない。LINEの履歴を見て「戸惑っております」と述べたが、戸惑うべきはそこではない。なぜ部下が自殺未遂に追い込まれたのか、なぜ安全配慮の義務を怠ったのか。その問いに答える気配はない。和解を急ぐほど、真相からは遠ざか ...

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[時事寸語]= ダレのための郵政民営化?

 郵便局が、いまや「不便局」と呼ばれても驚かない▼かつて全国津々浦々を結んでいた赤い車が、いま北海道で止まっている。酒気帯び点呼の不備を理由に、軽自動車三十台が使用停止。ゆうパックが届かぬ町では、「不便になる」と嘆く声が上がる。民営化で効率化をうたったあの日から二十年。合理化の果てに残ったのは、合理ではなく不便である▼小泉内閣が「官から民へ」と掲げた旗の下、郵便は「市場原理」の海へと放たれた。だが競争の潮は、離島にも山村にも届かなかった。採算のとれぬ地域は切り捨てられ、人手不足は恒常化。職員は嘱託に置き換え ...

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[時事寸語]= 棄民された就職氷河期世代

 八〇五〇問題。数字の並びは、いまの日本の老いと貧困の縮図である▼八十代の親が五十代の子を養う――この逆転の構図を、いったい誰が想像しただろう。就職氷河期に青春を奪われた世代が、いま親の年金にすがっている。彼らを「自助努力が足りない」と切り捨てた社会が、三十年を経て、静かに報いを受けている。政策の無策は、やがて家庭の悲劇となって帰る。放置された格差は、時間が熟成させた災厄となるのだ▼「格差なんて存在しない」「みんな満足している」と笑った政治家がいた。派遣制度を放任し、賃金を下げ競争をあおった者たちは、いま何 ...

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[時事寸語]= 生涯現役への違和感

 老後社会。誰のための「現役」延長なのか▼年金の受給開始を何歳にするか、自己責任で選べるようにするという。耳ざわりはいい。だが、その選択肢の裏には、選べるほどの余裕を持たぬ人々の姿がある。物価は上がり、預金は目減りし、年金だけでは暮らせない。ならば働け、まだ動けるだろう――社会の声がそう囁く。生涯現役という言葉は、かつては気骨をたたえた。いまや、生涯労働の婉曲表現である▼駅前のスーパーで、夜の警備服に身を包む七十代の男性と目が合った。孫のような客に笑顔を向けつつ、冷気に肩をすくめる。退職金を食いつぶすのは早 ...

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[時事寸語]= 村山富市さん死去

 村山富市という人は、時代に押し出された人だった▼冷戦が終わり、五十五年体制が崩れ、社会党が自衛隊を「合憲」としなければ政権は握れぬ。まさに逆風にさらされた指導者である。だが、その口から出た「反省とおわび」は、時代の要請を超えた倫理の発露であった▼政治家の言葉が軽くなる一方で、村山氏の語りには重みがあった。「死ぬときは一緒だ」と戦場で肩を寄せた戦友。「餓鬼道」としか呼びようのない軍隊経験。空腹と理不尽の中から、戦争の本質を見抜いた人である。「正常な人間のすることではない」と断じたその言葉は、道徳であり、証言 ...

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[時事寸語]= あきれた愚の骨頂「財務省解体」

 財務省を解体せよ、と勇ましい声が上がる。なるほど、確かに増税や緊縮財政は国民に優しくない。だが、だからといって病気を治すために医者を追放するような話が、果たして「改革」と呼べるのだろうか▼財務省は、確かに無愛想な組織である。「カネがない」とばかり言い続け、政治家の夢も国民の希望もバッサリと切り捨てる。だがその役目は、国家財政にブレーキをかけること。嫌われて当然の職務である▼今、その嫌われ者を解体すべしという論調がにわかに熱を帯びている。SNSに焚きつけられ、ついには財務省前に市民が集う。きっかけは「百三万 ...

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[時事寸語]= 呆れた高市新総裁のコンメイ

 かわいそうな高市早苗、と本人が言った。自己紹介としては斬新だが、党内の支持がぐらつく中での冗談には、笑う方にも覚悟がいる▼与党の座にしがみつく自民党が選んだ新総裁は、過半数に届かぬ議席を抱えて「手を尽くす」と言う。声高に語られる「女性初の首相誕生」も、現実には“首相未遂”の可能性が色濃い。党内から「総・総分離」論が囁かれるのも、支える足場が砂地だからだろう▼「馬車馬のように働く」と過日叫んだばかりの総裁が、今度は「かわいそうな私」へと転じた。哀れを売りにする首相候補など前代未聞である。だが、これが現代の自 ...

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