全国の警察が「トクリュウ壊滅」を叫んだ翌月、その“最前線”から機密が漏れていた。捜査員が、摘発対象の犯罪グループに設置カメラの位置情報を送っていたという。暴力団対策課所属の警部補が、風俗スカウト組織「ナチュラル」に捜査情報を提供。見返りに金を受け取っていた可能性がある――。犯罪組織と戦う側が、同じ穴の狢だった。もはや呆れるを通り越して、笑うほかない。警察が追っていた“匿名・流動型犯罪集団”トクリュウの一員が、制服を着て庁舎に出勤していたのである▼警視庁は先月、全国の警察を束ねて「トクリュウ対策本部」を設置し、総監自ら「壊滅へ総力を挙げる」と訓示したばかりだった。暴力団とは違い、ネットを介して離合集散する新型犯罪集団を撲滅するための“特別チーム”。その一員が、敵側とつながっていた。これほど象徴的な裏切りはない。もはや「警察対トクリュウ」という構図は幻想だ。現実には、両者の間に明確な境界はない。捜査対象を売る警察官と、警察官を買う犯罪者。どちらも同じ“商売”をしているに過ぎない▼「警察の信頼を著しく裏切った」と幹部は謝罪した。だが、その言葉も何度目だろう。性犯罪、飲酒運転、横領、証拠改ざん――列挙に暇がない。つい先日も、取り調べ中の容疑者が死亡したばかりだ。市民に「犯罪を防ぐ」ための組織が、自ら犯罪を重ねている。暴力団対策課が犯罪組織の情報源になり、生活安全課がセクハラで処分され、捜査一課が証拠を隠す。いったい何を“対策”しているのか。悪を取り締まる力が、いつの間にか悪そのものに変わっている▼今回の漏洩先「ナチュラル」は、女性を違法にスカウトして風俗に送り込む巨大組織。年間四十四億円を稼ぎ、その一部は暴力団へ流れていたとされる。警察が守るべきは、借金と暴力に縛られた女性たちのはずだった。だが、守ったのは加害者だった。捜査カメラの位置が事前に知らされていたなら、何人の被害者が再び“逃げられない現場”に戻されたのか。犯罪者と癒着する警察は、もはや「共犯」ではなく「構成員」だ。制服を着たトクリュウ、それが実態だろう▼それでも警察は会見で「再発防止」「徹底した調査」「信頼回復」を繰り返す。だが、信頼とは自ら語るものではなく、他者に認められるものだ。もはや“警察が信用を失う”という表現すら、生ぬるい。信用を失うほどの高みに、彼らはもういない。組織の論理が市民の倫理を圧倒し、腐敗が常態化して久しい。再発防止策が再発しているのだから、治療不能だ▼暴力団が弱体化した時代、警察は新しい「敵」を作りたがる。半グレ、特殊詐欺、トクリュウ。だが、そのたびに露呈するのは、敵の姿をした自分自身だ。トクリュウとは、匿名で流動する犯罪集団。ならば、今日の警察もまた、匿名で、責任が流動する組織ではないか。誰も罪を背負わず、誰も顔を出さず、誰も変わらない。犯罪者と警察官、その区別を見失った国家は、もはや“治安”を口にする資格すらない。

![[時事寸語]= 国営暴力団・警視庁](/image/template-header.jpg)