遅すぎた、という言葉がこれほど似合う逮捕もないだろう。政治団体「NHK党」党首・立花孝志――あの男がようやく逮捕された。だが、その容疑は「名誉毀損」。選挙を愚弄し、民主主義を踏みにじり、政治をネットの見世物に変えた罪に比べれば、あまりに軽い。彼が壊したのはNHKではない。政治そのものだった▼「警察の取り調べを受けている」「逮捕される予定だった」――兵庫県議を誹謗した虚偽の発言は、選挙という場を利用したデマの拡散そのものだった。告発を受けてから警察が動くまで、十か月。ようやく「逃亡や証拠隠滅の恐れ」と言い出したが、彼はその間もSNSで煽り、演説を続け、別の選挙に立候補していた。つまり、警察の判断基準とは“選挙に支障がないうちは逮捕しない”ということらしい。司法が自由の名を守るふりをして、破壊者を野放しにしていたわけだ▼立花が政治を壊したのは一度や二度ではない。議席を得てから国会を挑発の舞台に変え、候補者を乱立させ、供託金を使った“政治ビジネス”を確立した。政策ではなく炎上、討論ではなく中傷。投票箱に入るのは理性ではなく、怒りと嘲笑だ。立花が作り出したこの“デマの民主主義”は、いまや彼抜きでも動いている。SNSでは誰もが小さな立花になり、嘘と断定を武器に他人を叩く。逮捕されたのは本人一人だが、病原体はすでに社会の隅々にまで感染している▼マスコミの罪も重い。立花がNHKを罵倒したとき、テレビは“面白い男”として取り上げ、YouTubeの数字を競うように中継した。政治を娯楽化したのは、彼だけではない。NHKを守ると唱えながら、実際には「視聴率を守る」ために笑っていた報道こそが、最大の共犯者だった。人が死んでから、「誹謗中傷は暴力」と説くのはあまりに遅い。誰もがクリックで暴力を拡散してきたのだから▼逮捕翌日、彼が出馬予定だった伊東市長選の記者会見は中止となった。皮肉にも、ようやく選挙が静かになった。だが、遅すぎた。ひとりの県議が命を絶ってから十か月。民主主義はその間、ゆっくりと腐っていった。立花の名は今日も検索され、視聴され、語られている。彼は牢に入り、私たちはその牢の外で、彼が作った政治の地獄を生きている。

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