[時事寸語]= 村山富市さん死去

[時事寸語]= 村山富市さん死去

 村山富市という人は、時代に押し出された人だった▼冷戦が終わり、五十五年体制が崩れ、社会党が自衛隊を「合憲」としなければ政権は握れぬ。まさに逆風にさらされた指導者である。だが、その口から出た「反省とおわび」は、時代の要請を超えた倫理の発露であった▼政治家の言葉が軽くなる一方で、村山氏の語りには重みがあった。「死ぬときは一緒だ」と戦場で肩を寄せた戦友。「餓鬼道」としか呼びようのない軍隊経験。空腹と理不尽の中から、戦争の本質を見抜いた人である。「正常な人間のすることではない」と断じたその言葉は、道徳であり、証言でもある▼戦後五十年の節目にあって、未来を見つめた村山談話は、「国全体が狂った」歴史を認めることから始まった。だが、それが発せられた年に成立したのが、小選挙区制度である。政策より印象、信念より言い回し。時代は「選ばれる顔」を欲した。言葉の重さは、政権の安定と引き換えに軽くされた▼一票の重みが変質する中で、村山氏のような人物は“偶然の産物”になってしまった。戦後民主主義の果実の一つは、こうして歴史の中に遠ざかる。大衆はテレビのワイドショーを通じて政治を見、自らの代弁者を幻視する▼民主主義はときに不完全である。それでも、語る者を持ち、聴く者がある限り、再生の可能性を孕む制度である。村山氏が遺した言葉の一つ、「歴史に学ぶ」。これは過去への詫びではなく、未来への道標として響く。

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