[時事寸語]= 馬車馬高市内閣の禁じ手

[時事寸語]= 馬車馬高市内閣の禁じ手

 馬車馬のように走り続けることを美徳とする内閣ほど、往々にして視界は狭い。視線は前方の票と世論の数字だけで、横に並ぶ民意の息づかいには気づかない▼高市首相が就任後初の代表質問で打ち出したのは、「政治とカネに厳しい姿勢」と「定数削減の断行」。聞こえは立派だが、どちらも政権浮揚のための禁じ手に近い。裏金問題で沈んだ自民党が維新との連立で再出発した矢先に“議員を減らす”と唱える。なるほど、政治不信の空気の中では「身を切る改革」が一番の人気取りだ。だが、裏金を生み出す仕組みを温存したまま議席を削れば、残るのは“金のある者だけが政治家でいられる国会”である▼首相は「幅広い賛同を得たい」と言う。だが、政権を支える与党は裏金問題で説明責任を果たしておらず、野党の一角である維新は「定数削減」こそが政権入りの交換条件だった。政治改革の名を借りた数合わせにしか見えない。しかも削減対象となるのは、常に小選挙区の地方議員。都市部の議席は守られ、地方の声はますます細くなる。地方創生を掲げながら地方代表を減らす――これほど器用な“自己矛盾”も珍しい▼同じ国会では憲法九条改正や緊急事態条項の常設など、重いテーマが並行して進む。裏金事件の総括もないまま、改憲の議論だけは前のめり。連立を組んだ維新の後押しで条文起草委員会を常設しようという話も出ている。だが、政治資金の透明化すら満足にできない人々が、緊急時の権限拡大を語る姿には恐ろしさすらある。信頼を取り戻すどころか、「まず自分たちを守るための法整備」に見えてしまうのはなぜだろう▼結局、この内閣が打つ手の多くは、問題の根に向かわず表面を削るだけの政治的カンフル剤だ。裏金は「再発防止策を徹底」、定数削減は「政治改革の象徴」、物価高対策は「検討を加速」――すべてが定型文で、誰の責任も問わない。議員の数を減らす前に、説明責任を果たさない議員を減らす方がよほど健全だ▼高市首相は「粘り強く全力で」と繰り返す。だが、粘り強さが向かう先が政権維持と改憲であり、政治倫理の回復ではない限り、この“馬車馬内閣”の行き先は見えている。砂煙の向こうにあるのは、国民の疲労と冷笑。いくらムチを打っても、信頼という名の車輪はもう空転している。

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